――まずカメラマンを目指したきっかけを聞かせてください。

 僕が高校生の時にイラク戦争が起きて、テレビで連日のように報道を見ていましたが、ミサイルを発射する場面や、それが着弾して爆発するのを遠巻きに捉えた映像ばかり。戦禍の中に住んでいる人たちがいるはずなのに、ブラウン管越しにはその人々は見えてこない。それがもどかしいし、なんだか気持ち悪いと感じたんです。数年後、まだその記憶が鮮烈に残っていた時に、広島在住のプロカメラマンの方からキヤノンのデジタル一眼レフを譲っていただく機会があり、それをきっかけに写真で人々の気持ちを代弁できないか、格好良く言えば写真で世の中を少しでも良くしてみたいと思い、報道カメラマンを志しました。

――プロカメラマンとして報道写真だけでなく、数多くの著名人や企業広告の写真も手掛けられています。

 カメラを手に入れてからは、まだ大学生だったのですが、世界最貧国の一つとされるバングラデシュに単身で撮影旅行したり、報道現場に飛び込んで出版社などに売り込んだりしていました。卒業後にニュースサイトのスチールカメラマンとして就職、その後タレント雑誌のカメラマンを経て、2011年2月にフリーランスとして独立しました。それが2月末だったのですが、それから半月もしないうちに東日本大震災が起こり、都内の震災の様子や、東京電力本社に張り付いて混乱する現場や記者会見の写真を撮っていました。 その後は報道現場だけでなく、著名人のポートレート、企業のホームページや広告、イベントなどビジネス向け写真も手掛けるようになります。 当時は雑誌の著名人やタレントの取材撮影をメインとしていたのですが、右肩下がりの雑誌業界に身を置くわけにもいかず、またビジネスに関する写真を撮影しようと、2014年にdeltaphotoを立ち上げました。

――deltaphotoでは法人向けのビジネス写真に特化していますよね。

 私は写真には力があると思っています。それは報道の現場だけでなく、ビジネス向けの写真でも同じです。ポジティブなこともネガティブなことも、かわいらしいとか美味しそうなど雰囲気まで、一瞬を切りとった一枚で伝えることができます。しかし、カメラマンも報道現場に強い、七五三や学校行事など子ども専門、ウェディング撮影中心など得意分野は様々で、ビジネス分野の撮影が得意なカメラマンばかりではありません。 ビジネス向けの需要はどんどん増えており、様々なカメラマン派遣サービスがありますが、必ずしもビジネスを得意としたカメラマンのチームであるとは限りません。 カメラ機材を手にしやすくなった今では、カメラマンと言っても、プロ・アマが玉石混交しています。私自身がさまざまな分野を撮影してきた現役のプロのカメラマンだからこそ、クライアントの要望を汲み取りながら撮影をする、クライアントが安心できる写真撮影サービスを立ち上げようと思い、deltaphotoをスタートしました。

――“良いビジネス写真”とはどのようなものですか。

 “良い写真”って本当に難しいんです。クライアントによって要望はさまざまですし、私たちが撮影した写真も必ずしもすべてのクライアントにご満足いただけるとは思っていません。そもそもクライアント側も、どんな写真が“良い写真”で“悪い写真”か分かっていない場合も多くあります。ただ一つ言えるのは、ビジネス写真においての“良い写真”はその写真を使用するシチュエーションで伝えたいメッセージや戦略に沿った形の写真が良い写真ではあると思います。 例えば”権威”が大切な士業やドクターのビジネスプロフィール写真であれば、笑顔ではなく真面目な顔の写真を撮影することもありますし、逆に「近寄りがたいと思われないようにブランディングをしたい」のであれば、笑顔の写真を多めに撮影するなど事前のヒヤリングやクライアントによって“良い写真”は変わってきます。 だからこそ、撮影現場や事前のヒヤリングでクライアントの意向をくみ取った構図を提案できるかどうかが重要になります。 ライターの方だったらペンを走らせている場面、弁護士の方だったら陰影をつけて重厚感を出すなど、クライアントとのお話の中でご提案します。 ただきれいに撮れるだけのカメラマンはプロではなく、アマチュアです。ただし、“良い写真”を撮るためにはカメラマン一名の力だけでは成立せず、どのような写真を撮影したいかというイメージをもって撮影に挑んでもらうことで、良い撮影にすることが出来るのです。

――アマチュアとプロの違いって何でしょうか。

 これはとある漫画の編集者さんが講演会でおっしゃっていたことですが、同人誌を書いている人とプロの漫画家の違いは「お客さんの需要に応えられるかどうか」なんです。 同人誌作家も絵がうまいし、ストーリーも描ける。でも彼らは『これは違うよね』と言われた時に、直しができない。カメラマンの世界でも同じです。今ではカメラを持っていて、きれいに撮れる人はカメラマンと呼ばれることはありますが、写真好きが高じてきれいに撮れるだけではプロじゃないんです。 クライアントの会社のイメージが良くなって、売り上げが上がる、入社志望者が増えるなど結果に繋げるのがプロの写真です。クライアントにとって写真は投資であり、資産になるものでなければならないと思っています。

――deltaphotoは「ビジネス向け」ですが、どのようなクライアントがいるんですか。

 一部上場企業をはじめ大手・中小企業など様々です。 歯科医や税理士といった士業の方や整体師など個人事業主もたくさんいらっしゃいます。「ビジネス向け」なので、「うちの孫を撮ってほしい」など個人の方のご依頼はお断りしていますが、法人化されていなくても個人事業主の方はお受けしています。クライアントにとってお金をかけて写真を撮るのは、投資判断になるかと思いますが、近年では一般の方もSNSで自ら写真を撮ったり見たりする機会が増えており、世の中が“写真慣れ”しています。 今では、会社のホームページに素材サイトで購入した写真を使うと、写真の雰囲気からすぐに見抜かれてしまいます。会社のホームページや採用サイトなど様々なビジネスの場面でも、プロによる写真で自社の魅力や他社との違いをアピールする必要性が高まっていると思います。


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私が記事を書きました

中野 龍

1980年東京生まれ。毎日新聞「キャンパる」学生記者、業界専門紙・化学工業日報記者などを経て、フリーランス。現在は、通信社で全国の地方紙に掲載される著名人インタビュー、放送芸能記事を担当するほか、週刊誌、ウェブメディアなどに寄稿。企業のコピーライティングなども手掛ける。
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